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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7130号 判決

原告 小寺ウメ

右訴訟代理人弁護士 中津靖夫

被告 株式会社富士銀行

右訴訟代理人弁護士 松山全一

主文

被告は原告に対し、金五〇万円およびこれに対する昭和四一年八月五日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払うこと。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求原因として、

「原告は被告に対し昭和四〇年四月一〇日、五〇万円を満期昭和四一年四月一〇日の約束をして定期預金をした。

よって、原告は被告に対し、五〇万円および満期の後である訴状送達の翌日である昭和四一年八月五日から右支払ずみまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。と述べた。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の事実は知らない」

と述べ、抗弁として、

「被告の預金の支払義務は、原告の定期預金証書の返還義務と同時履行の関係にあるから、原告が右義務を履行するまで被告は右預金の支払を拒絶する」

と述べた。

原告は答弁として、

「被告の預金の支払義務は、原告の定期預金証書の返還義務と同時履行の関係にない。原告は本件定期預金証書および届出の印鑑を盗取された」

と述べた。

立証として、〈以下省略〉。

理由

一、原告本人尋問の結果によれば、原告は小寺紀陽子名義で被告に対し原告主張の定期預金をした事実および山田多香緒が原告から右定期預金証書および届出の印鑑を窃取した事実を認めることができる。

山田多香緒が原告主張の定期預金をしたとの乙第二号証(内容証明郵便)の記載は原告本人尋問の結果に照らして信用できない。右窃取したとの認定に反する乙第一号証(内容証明郵便)の記載は原告本人尋問の結果に照らして信用できない。乙第三号証から第六号証までの記載は右認定を妨げるものとみられない。他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

二、定期預金債権は指名債権である。定期預金証書は債権証書である。そこで、一般に定期預金の支払義務は定期預金証書の返還義務と同時履行の関係にないと解すべきである。弁済者は弁済受領者に対して受取証書の交付を請求することができるから、弁済は受取証書の交付と同時履行の関係にあると解することにより、弁済の証明のためには十分であるからである。

そして、その趣旨形式によって被告が使用している定期預金証書であると認められる乙第八号証によれば、一応、被告は預金者に定期預金証書の差出と引き換えでなければ定期預金を支払うことができないものと約束をしていることが認められるが、預金者が証書または印章を失ったときは、被告に届出をすることになっていることが認められるから、預金者が証書を盗取されても、その返還と預金の支払が同時履行の関係にあるとまでは約束をしている取り扱いとみることはできない。

他に被告の抗弁事実を裏書するに足りる証拠はない。

被告の抗弁は理由がない。

三、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、〈以下省略〉。

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